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    「ふうん、それもよからう」

    練吉はさつきから一人で喋つていた。

    思はず正文は笑ひかけた。それを隠すやうに小首をかたむけてわきを向くと、又房一の話を傾聴する恰好になつた。そして、一度起きなほつた背はだんだんと柔かく前こゞみになつた。

    「すみましたよ。さあ。何でもありませんなあ。ぢき起きられますよ。ごく軽いんですからね」

    「まさか!」

    「こんなところで初対面のご挨拶をしようとは思ひがけなかつたですね。――いや、初対面といふわけでもないんですな」

    出て来たのは紅い手をした看護婦だつた。台所の方へ行つて何やらまごまごし、しばらく立つてから、

    「相手は誰です?こゝの御隠居ですかい」

    正文はそれきり黙つた。だが、練吉の妻はまだそこに片手をついたまゝ、何か答へを待つやうに老医師の方を向いていた。その眼には何か訴へるやうな非難するやうな色が見えた。正文はふと気づいた。

    「さう、知つてる、知つてる」

    「だいぶ、様子が変りましたな」

    「きさまか、鬼倉ちふのは」

    黒光りのする戸棚の蔭からびつくりしたやうな義母の円つこい眼がのぞくと、

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